2008年の7月、私はニューヨークに赴任した。ジェトロ・ニューヨークは当時、ロックフェラーの一角のマグロウヒルビルの42階というすごいところにあった。映画「プラダを着た悪魔」の舞台になったビルである。タイムズスクエアからもすぐ、ロックフェラーのクリスマスツリーからもすぐというところで、ミッドタウンのど真ん中!という感じであった。初めて見るマンハッタンの街並みは、映画で見るよりも小汚く思えた。どこか香港に似ているなとタイムズスクエアで思った。

ニューヨークに来てすぐ、サブプライムローンに端を発したバブルが崩壊した。いわゆるリーマンショックで知られるリーマンブラザーズの破綻は2008年9月だ。リーマンのビルは実はジェトロの斜め前といっても良いほど近くにあって、報道陣が私有物を入れたダンボール一つでビルを後にする解雇された人々を撮影していた。そして、5番街やマジソン街をはじめとして、多くの特に高級な店舗が閉鎖され、翌2009年初頭の底に向けて、景気はひたすら下降していった。百貨店では、85%オフなんてのを見たような記憶もあるし、いろんなところで投げ売りのような現象が起きていた。

たしか、2009年の春には、ニューヨークでは、新型インフルエンザ(豚インフルエンザと呼ばれていた)騒ぎがあり、日本でも大きく報道された。

このころは日本の報道では、アメリカは金融危機を経て、あたかも沈没してしまうかのごとき、アメリカは終わり、時代はBRICSをはじめとする新興国だと報じていたように思う。豚インフルもかなり報道されたのか、日本からの出張者が展示会でマスクをしてグループで歩いていた。

ただ、やはり、自分の頭で考えると、どうも日本の悲観的すぎる報道には違和感があった。5番街の店舗閉鎖も、言って見れば新旧が入れ替わっていただけなのかもしれない。日本の高島屋のあとに、フォーエバー21がはいり、クィンズボローブリッジの下のコンランショップの後に、TJ MAX(ディスカウント大手)が入ったのが印象的であった。

不景気だ不景気だと言っても、Iphoneは売れ続けていたし、サムスンや現代もどんどん頭角を現し、アマゾンはその名のとおり、もう一見して全容がわからないほど巨大に成長している最中だったし、フェイスブックやツィーターなど新しいSNSも成長していた。

なぜ、アメリカが終わるって思うのか、私には不思議であった。先進国最大の人口は3億人を超え、世界3番目に多い人口で、少子高齢化を迎える他の先進諸国を尻目に今後も安定的に人口が増える。人口が増えるというのは市場が大きくなるということだ。また、世界から優秀な頭脳が集まり、革新的なニュービジネスが生まれ続けている。最強の軍事力を背景に、基軸通過ドルを有して、金融でも世界に影響を持ち、いや秩序を作っている。たしかに50年後、100年後はどうなるかわからないが、私の世代が生きている間は、この圧倒的な力はそうそう変わらないのではないか、と思った。

ジェトロにいると相談に訪れる企業さんは、必ずといっていいほど、「景気はどうでしょうか?」と聞かれた。大変失礼な言い方かもしれないが、全米にくまなく販売網をもち、何百万台と売られているトヨタ自動車ならいざ知らず、少々の景気変動が、まだアメリカに1ドルも売っていない企業に関係があるのだろうか?とよく思った。不景気でも伸びている業種や会社はある。