2009年の話。

当時、日本のデザイン展をパリに引き続き、NYでも行うということで、準備を進めていた。経済産業省の強力なバックアップがあり、大型のイベントとなった。感度の高い、プロに見てもらおうということで、デザイン、インテリアの展示会であるICFFと同時開催、というか一つのホールをすべて借り切って、日本のデザイン展をそこで開催した。ジャビッツ展示会場のホールDをすべて日本で埋めたので、かなり大きな規模であったと思う。

東京デザインウィークを主宰されているデザインアソシエーションの川崎氏がプロデューサーとなり、スケールの大きな展示となった。120社の商品を12の和言葉のブロックに分けて展示し、会場奥には当時としては巨大な200インチのLEDに、今をときめくチームラボの映像と不思議な音楽が会場を包んだ。

ジェトロがやるからにはと単なる展示ではなく、ビジネス的にも前進させなくてはと、12名のアメリカ人スタッフを用意し、それぞれのブロックに配置、「買いたい」といった引き合いをすべて記録することとした。いくら既存の展示会の枠の中でやるとはいえ、準備はものすごく時間がかかった。展示の制作も、NY特有の事情かもしれないが、ユニオンに属するレイバーは日本のように残業をしない、のでなかなか進まない。それでも連日連夜、ほぼ夜中近くまでかかって、なんとか開幕を迎えた

Japan by Designと銘打ったイベントは、125社の商品をセレクトした日本のデザイン展の部分と25ブースからなるジャパンパビリオンからなった。蓋を開けてみると、大盛況で、スキャナーを持ったスタッフを入り口に配置して1名ずつスキャンしたのだが、4日間で、のべ約12000名の来場があった。そしてくだんの「買いたい」という引き合いは、合計で2700件を越えた。この展示会を機に世界に羽ばたいたメーカーさんもあった。有名美術館のパーマネントコレクションに採用された例もあった。そして、何よりも日本のプロダクトデザインがこれほどまでに、ニューヨーカーのしかもプロから高い評価を受けたことに、個人的にもものすごく興奮をしたのを覚えている。

12の和言葉を当時の報告書を見て書き出してみる。表情に関する、「かげろう」、「たたずまい」、「にしき」、「きめ」。動作に関係する、「しつらえる」、「しなる」、「はぶく」、「おる」、こころに関係する 「もったい」、「もてなし」、「かろやか」、「むすび」。

それぞれが日本に固有のプロダクトデザインに関する要素だとして、日経デザインの下川編集長を中心に、商品がキュレーションされた。そういった、説明を加えられて、グループ化され、120を越える数で展示されると、さすがに日本のプロダクトデザインという地図が出来たような気がした。本当に素晴らしい展示会であった。私が日本のプロダクトに魅せられるきっかけになった一つのイベントであった。

そして、2700件のビジネス的な引き合いは全て、ジェトロ本部を通じて、出品物を提供してくれた企業に伝えられた。中には上述のように、世界に羽ばたいた会社、ブランドもあったが、そのほとんどは、時間がたつにつれて、音沙汰がなくなった。ジェトロとしては、場や機会の提供、そして商談の仕方、貿易に関してなど情報の提供まではできるのだが、実際の受注などには立ち入れない。あれだけ、ニューヨーカーが高い評価をして、盛り上がったうねりのような興奮が、時間が経つとともに消えていくことが、もったいないと思った。この時、もっとアメリカにいて、現地で日本の商品を売ってくれる人がもっといるといいのにな、そう思った。まさか、自分がその役を買って出ることになるとは想像だにしていなかったが。